「僕がちょっと留守にしてる間に、何であんなのが勝手に転校してきてるのさ。許可した覚えはないよ」
ぷりぷりと・・・・、まあこの猫に限ってはそんな可愛いものでは全然なく、どちらというならギラギラと。殺気を振りまき
ながらも雲雀は綱吉の肩の上で呟いている。
朝。登校中である。
空はさわやかに晴れ渡っていた。これでヒバリさえ不機嫌でなければ、綱吉はそのさわやかさを存分に堪能すること
ができたのには違いなかった。
せっかく熱も下がったというのに綱吉の顔色はよろしくない。
昨日も玄関先で一触即発の様相を呈していた2人、もとい、1匹と1人が、とんでもない騒動を起こすのではないか
と、それを思うととんでもなく頭が痛いからだ。
そして例外なくそういった事態に綱吉は巻き込まれる。穏便に他人の振りをしていてさえもだ。
何を言っても仕方がない。活火山と口げんかをするようなものだ。
天災なんかよりももっと性質が悪い。
綱吉は、はあ、と重苦しい溜息を吐き出した。
むろん、とっくに六道骸にターゲットロックオンしたらしいヒバリは、どこかから現れないかとギラギラと周囲を睨みつけ
ることに余念がなく、そんな綱吉の様子など気にした素振りさえなかったが。
そのヒバリの眼光のせいで道行く通行人がいつもより3割り増しくらいに綱吉と距離をとる。正確にはその肩に乗った
ヒバリとだろうが。
ああ、と綱吉は遠い目になった。もはやどう手を伸ばそうとも、平穏な日常というのは綱吉の手の届くところには落ち
てこないらしかった。
ひとつ、気になって問いただしてみる。
「・・・・うちの学校って、入学にヒバリさんの許可が必要だったんですか・・・・?」
「当たり前だろう」
即答だ。ギロリと睨まれる。
これはよほど機嫌がよろしくない。
整っているだけに多少顔つきの鋭いこの猫に睨まれると、自分がトラの檻に放り込まれた牛のもも肉になったような
気分になる。
わずかに身を引きながら、といってもヒバリは綱吉の肩に乗っているのだから、両者の距離は開きようもないが、とに
かくそんな仕草をしたあと、綱吉はなるたけヒバリを刺激しないように呟いた。
「うわあ。当たり前なんですか・・・・」
知らなかったなあ、と綱吉はかなりマジで驚いていた。ていうか知りたくなかった。
街を、学校を牛耳っている、猫。猫ではないと本人は言う。
確かに猫ではないのかもしれない。なにこの影響力。思わずというように言葉が漏れる。
「本気で、ヒバリさんて何者なのー?!」
「うるさい」
げし。
容赦のない跳び蹴りは病み上がりでも容赦なく、今日も綱吉を撃沈させたようではあった。
そんな朝。


BLACK CAT LIFE





いつ出てくるかと、びくびく校門をくぐった綱吉ではあったが、そこに骸は現れなかった。
ヒバリとは昇降口で別れたが、その間に骸が現れなかったことに、とにかく綱吉は安堵していた。
朝から怪我とか救急車とか入院とかそんな事態だけは勘弁して欲しい。朝でなくてもできることなら勘弁して欲しい。
もしかすると、一戦交える気満々のヒバリと違い、骸のほうで避けてくれたのかもしれなかったが、それは綱吉にとっ
てはありがたかった。
同じ学校にいてずっと顔をあわせることなくやっていけるものだと思うほど楽天的にはなれないが、できることならそ
んな騒動に巻き込まれたくないのだ。
もっとも巻き込まれずにすむとは微塵も思わないが。
じゃあね、と乗っていた綱吉の肩を蹴って跳び降りたヒバリが振り向きもせずに校舎の奥へ消えるのを見送りなが
ら、綱吉はほっと息をついた。が。
教室に入るなり、問題の男は綱吉に華麗なタックルをかましてきた。
「おはようございます!!綱吉くん!!」
ずるずるべったん。
なす術もなく倒れこみながら、どことなくこの展開、ヒバリさんの蹴りに似ているなあ、少し威力は控えめだけどね、な
どとずれた感想を綱吉は抱く。
この手の仕打ちには慣れている。顔面を激しく打ちつけようとも、こういうもんなんだなと気持ちに折り合いをつけるこ
とにもなんだか慣れっこだ。
そのせいで、痛いには痛いがタックル自体にたいした衝撃を受けるわけでもなく、綱吉はため息とともにうつぶせに倒
れた自分の上から腰に手を回してのしかかる男に声をかけた。
「・・・・えと、骸?」
とかいう変わった名前だったよな、この人。
確認するように本人を伺えば、にっこりと綺麗な笑みが返される。
「はい」
無駄に美形だな!!この人。なに考えてんのかわからないけど!!
ヒバリさんって、人になったらこんなかんじの顔なのかもな。
ヒバリに言おうものなら確実に殴られそうなことを考えてみたりする。
六道骸。
笑っていてもどこかしら油断できない感じはひしひしと感じはするが、というか、そもそもいきなり病み上がりの人間に
タックルという時点でかなり普通ではないが、ヒバリの暴力に慣らされた綱吉は幸いそれに気づいていない。
背中から退かない男に問いかける。
「て、転校してきたって、本当だったんだ・・・・」
半ば、熱の見せた夢であればいいななんて思わなかったわけでもない綱吉であったが、そんな希望はあっさりと粉
砕されたらしい。
「もちろんですよ。クラスも君と同じです!!」
「そ、そうなんですか?」
嫌すぎる!!と内心悲鳴を上げての問いかけに、骸はどこまでも笑顔で答えてくれた。
「いえ本当は君より1学年上ですが、僕は勉強が出来るので授業に参加する必要すらありませんし。この教室で君
の傍にいることにしようかと」
どう考えても普通でない発言をさらりとする。
綱吉の引きつる頬を汗が伝った。
「授業に参加する必要がないって、何のために学校に来てんの?!自分の教室に帰れよ!!」
つか、オレの傍にいるってなに!!怖くて聞けないけどなんで!!
口に出してだけではなく、内心でもかなり激しくつっこみつつも、とりあえずそのあたりは言わないでおいたほうがい
いだろうと自制している綱吉に、後ろから声がかかる。
「沢田さん!!どうなさったんですか!!てめこのやろ、沢田さんの上からどきやがれ!!沢田さんにタダ乗りするな
んざ、とんでもねえヤローだ!!」
「君もタダ乗りってなんだ、タダ乗りって!!」
今登校してきたところなのだろう、獄寺が教室の入り口でのこの光景に慌てて綱吉の手を取りつつ吐いたセリフに、
綱吉は即座につっこんでおいた。
獄寺は時々発言が、いろいろと空気を読めていない。というか、綱吉からすれば、善意なのか悪意なのか本気で悩
む発言をする。
いや、多分きっと間違いなく彼の中では善意なんだろうけども。
「おっと、これは失礼。重かったですか綱吉君」
少年とはいえ大の男1人乗っけて重くないわけないだろ?!とは綱吉心のツッコミだ。
もっと早くにつっこんでおくべきだったかもしれないが、骸の存在と発言がいろいろと問題すぎてそれどころではなか
ったのが事実である。
とにかく悪びれずにクフクフ笑いながら綱吉の上からどいた骸に獄寺は詰め寄った。
「てめぇ、どこのクラスのもんだ?!」
「君に答える必要はない。僕と綱吉君の邪魔をしないでください」
「あ、あのさ、獄寺くん、」
この人転校生で先輩らしいんだ、と告げようとして、しかしそれは妙にきっぱりとした骸の声に遮られた。
「綱吉君は僕のものです」
「違うだろ?!つか、何言っちゃってんの?!」
この人、オレに何を求めてるの?!
カモとか下僕とかやっぱそういう種類の服従だろうな、とどこか諦めムードで考える綱吉の脳裏に黒猫の姿がよぎ
る。
ああ。そういえばヒバリさんも、オレのことそういう扱いでいそうだもんな。
などと考えて少しさみしくなってみたりもする。
聞き覚えのある笑い声が後ろから聞こえた。妙にさわやかだ。
「ツナ、そいつ面白いのな!!」
どこから聞いていたのか、コメントはいつものように山本節だ。
「・・・・おはよう。山本」
どこまでもさわやかにあははと笑う山本に、ツッコミを放棄した綱吉は、若干涙目で挨拶をした。
いくらなんでも最近自分の周りは問題がありすぎる。それは決して気のせいではないはずだ。
もう何も言う気にならずに綱吉はがっくりと肩を落す。
不意に骸がその周囲を見回すようにした。低い位置に視線を彷徨わせてそれから綱吉に向き直る。
「ところで綱吉君。今日は君のあの猫はいないんですね」
いないことがさも意外なことであるかのように骸は問いかけてきた。
ぎく、としながらも、ここ、学校だぞ?!本来はいることがおかしいだろ?!まあ実際はいるんだけども、それを言うと
いろいろとややこしくなるし、と思いながら。
「え?いやだってさ、ここ学校デスヨ?」
連れてこれるわけないじゃないですか、あはははと綱吉は乾いた笑いを響かせる。
物騒な予感のする質問にはとぼけるに限る。1人と1匹が今日中に鉢合わせないという保障などはありはしないが、
というかきっとヒバリのほうが血眼で探し回っているに違いないだろうが、2人が出会う瞬間が自分の目の前とかそう
いう状況でない事を祈るばかりだ。
まあきっとその場にいなくたって絶対に巻き込まれるんだろうけど。
「ほう?そうなんですか?」
やはり意外なことのように骸は聞いてくる。その瞳が静かに色を、深く濃くしていく、錯覚。怖い、と反射的にすくみ上
がった。
いつの間にか隣に来ていた山本がぽんと肩に腕を回してきた。
その温度と重みに少しだけ気持ちを落ち着かせて、もう一度骸の瞳を見やった。骸の瞳の色は変わらない。ただ答え
ることを綱吉に求めている。
恐怖は少しだけ薄らいだ。それでもうまく誤魔化せる答えが見つかったわけでもない。言葉に詰まる。
そのとき教室に、実にタイミングがよくチャイムの音が鳴り響いた。
「ほら、予鈴!!予鈴鳴ったからさ、とりあえず骸は自分の教室に帰って!!」
スピーカーからのその音に骸の注意がわずかに逸れた瞬間を逃さず綱吉はそういって骸の背中を押す。
当初の宣言どおりに居座るとか言われたらどうしようという綱吉の心配を他所に、骸はそれもそうですね、とあっさりと
頷いてきた。
「またきます」
にっこり笑って退室していく。
その背を見送って、しばらく沈黙した後、綱吉ははあ、と大きな溜息をついた。
朝なのに、まだ一日は始まったばかりだというのに、妙に疲れた気がしていた。
隣にいる山本に問いかける。
「山本ー。バレたと思う?」
ちなみに獄寺は骸におとといきやがれとセリフを投げ、ね、沢田さん、と振り返り、さっさとその腕をどかせ野球バカ、
と山本の、綱吉の肩に乗っているほうの腕をどかしにかかっていたりと、1人なにやら忙しそうだ。
「んー?どのみちいつかバレるんじゃね?ヒバリがいたらまずいのか?」
山本はぽりぽりと空いた手で頬を掻きながら、やや間延びした声で問いかけてくる。
はふ、と綱吉は沈痛な溜息をもうひとつついた。
「実はさー・・・・いろいろあったんだけど、あの2人、険悪みたいでさー・・・・同族嫌悪ってやつかもしれない、なんかう
まくいえないけど似てるし。あの2人」
有無を言わせないところとか、と綱吉は呟く。
どのみち溜息なしには語れない話だ。
ふーん、と頷いて見せた山本は宙を見上げるようにしてふと考え込む。それからあっさりと笑って言った。
「ま、この学校にいて、ヒバリの洗礼を受けないとかありえないんじゃね?」
「ああああ、やっぱりいぃ」
綱吉は両手で頭を抱えていやいやをするように首を振る。
オレの平穏な日常が〜!!と呻く声は、鳴り響いた本鈴の音でさえかき消せそうにはなかった。





綱吉認識では少しだけヒバリに似ている男、六道骸。
彼はその実、ヒバリよりももっと厄介な男だった。
初めからその兆しがなかったわけでもないが、ものの数時間で綱吉はそうと理解した。
予想に反してヒバリがすぐにでも現れて、頂上決戦の運びとならないのが救いといえば救いではあったが、骸1人で
も十分すぎるほどに厄介だ。
なんかもう存在全てが厄介だ。言動の全て、変態的な性格、奇妙な笑い、奇跡的な髪型、無駄に綺麗な顔、その全
てがだ。
もうこの際、自分に関係がないことなら全てどうでもいいが、なぜかそうもいかないらしい。なぜだ。
ずきずきと痛むこめかみを押さえて、綱吉は問いかけた。
「大体あんたらは毎時間毎時間、何でうちのクラスにきてはぐーたらしているんですか?」
「そんないつものことを改めて聞かれても」
「いい加減諦めれウサぴょん。暇なんら」
「ごめんなさい」
「・・・・めんどい」
以上が骸一味の言い分である。
ちなみに一味とは、一緒に黒曜中から転校してきた、平たく見たままに言うならば、友達などではなく、下僕、もしく
は舎弟と思しき3人組のことである。
ちなみにそのうちの1人、唯一の女子である凪は綱吉と同学年で綱吉の隣のクラスだ。
骸の妹らしいが、彼女は非常に可愛らしい。兄の影響を受けすぎた髪形を除けば、問題なく可愛らしい少女だ。性格
も一味の中では比較的普通っぽい。
しかし休み時間毎に4人揃ってやってこられて、例外なく獄寺やら山本やらと揉め事起こすのはやめてもらいたいと
言うのが綱吉の言い分である。
とりあえず綱吉は溜息をついた。本日何度目になるかもわからない溜息をだ。
告げる。
「オレは暇じゃないんで帰ってください」
瞬間。
からんと音を立てて骸の持っていたコーヒー缶が床に転がる。幸い中身はたいして入っていなかったらしい。
ころころと転がる缶から液体は少量しか出ては来なかった。まあそれはいい。
骸の顔が突然に青褪めていく。
「綱吉くん、僕のことが嫌いですか?!」
詰め寄られた。ずずいっと体を近づけられる。広げた両手でガードしながら後ずさる綱吉である。
「いやそういうことじゃないんだけど、」
「じゃあなんです?!」
「ないんだけど、お前らって、面倒ごとばっかり起こすから困るってゆーか、わけわかんないことでオレに文句言う
し、」
それだけですか、となぜか骸が安心したように言うのに、綱吉はさらに言葉を継ぐ。
「人の話を聞かないって言うか、話が通じないって言うか、強引に自分の都合のいいほうへ持っていくって言うか」
「そんなものあの黒猫で慣れてるんじゃありませんか?」
「ヒバリさんはまだ可愛いほうですよ」
うっかりぽろりと。そういってしまってから、しまった、と骸を伺う。
なぜか骸はヒバリのことを知りたがっているようで、ことあるごとに聞きだそうとしては、蛇のようにねちこい瞳を綱吉
に向ける。正直それが綱吉には少し怖い。
「ほう?たとえばどんな?」
顔を寄せられて竦み上がる。
「う、え、ほら、ヒバリさんは猫だから、話とか通じなくて当たり前だけど、」
ちろ、と視線を逸らして、しどろもどろになりながらも何とか誤魔化そうと答えていく。
その間も骸はクフクフ笑っていたし、沢田さんから離れろ、とその骸に獄寺は怒鳴っていたし、山本は険しい瞳をして
骸の下僕その1こと犬とかいう少年と睨みあっていたし、下僕その2こと柿本はそれを見守りつつも気配だけは鋭利
なものを思わせるそれだ。
骸の妹だという、凪だけが骸の後ろで困ったようにおろおろしている。
平和なはずの教室の中で、なんかもうそこだけ空気が異様だ。
どう誤魔化したらいいのかわかんねー!!
そんな綱吉の叫びが天に通じたわけでもないだろうが、校内放送が教室に響き渡った。
「六道骸。至急、応接室。2分。遅れたら殺す」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「なんか校内放送物騒だ!!」
とりあえず綱吉以外のその場にいる全員が沈黙している。少なくとも普通の学校の校内放送で流れるには物騒すぎ
る内容だ。
ヒバリの声ではなかったが、ヒバリ関係であることだけは間違いないと綱吉は骸の反応を固唾をのんで見守った。
対する骸は楽しげにクハー!!と笑い声を上げた。
「おやおや。向こうからいらしてくれたようですね」
嬉々として教室を出て行こうとする。その背を複雑な気持ちで見送る綱吉はもうなんに対してなのか分からない溜息
をその背に向けた。
ふと、教室のドアのところで骸は綱吉を振り返る。
「綱吉君、君を絶対にヒバリ君から取り戻して僕のものにしてみせますよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
骸が足取りも軽く、・・・・そりゃもうスキップでもしそうな勢いで・・・・、出て行った教室で、再び沈黙が落ちる。
なんていうか先ほどの沈黙とは質の違う、肌寒いが生暖かいという奇妙な温度の沈黙だ。
つっこむしかない。オレがつっこむしかないのかやっぱり!!そんな思いで綱吉は口を開いた。
「一体何の勘違いー?!」
泣きたい。本気でちょっと泣きそう。
山本の手が綱吉の肩を叩いた。その優しさは今度こそ綱吉の胸を慰めはしなかった。





「風紀委員は僕をこの学校から放逐するそうですよ」
「へ、へえ」
風紀委員?!と内心首を捻りながらもやはりヒバリ関係だろうと綱吉は見当をつける。
学校から放逐するとか何とか、そんなことを一般の生徒ができるとは思えないし、生徒たちだけで構成された一委員
会がそんな権限を持つはずもないだろう。
その辺りは言葉にせず綱吉はただ曖昧に相槌を打つにとどめた。骸がゆっくりと目を眇める。
「綱吉君の猫は何者なんですかねえ」
そんなことを言われたところで、綱吉だって何か知っているわけではない。
それをむしろ幸運に思った。知っていれば、抜けている自分のことだからボロを出しかねないし、何か余計なことを言
ってしまうかもしれない。
「今日ヒバリさんに会ったんですか?!」
「いいえ?まだ会っていません」
「そ、そうなんだ」
直接ヒバリと対面したわけではないらしい。
確かにこの2人が顔を合わせていたらどちらも怪我なし校舎の破壊もなしですむとは思えないから、学校のどこかが
損傷したということもなく、骸もピンシャンしている現状を見れば、間違いなく会っていないのだろう。
ところで、と骸は言葉を続ける。
「綱吉君。僕は今日君の家に行ってもいいでしようか?」
「なんで?!」
「僕があの猫を追い出してあげましよう。君もそれを望んでいるのではありませんか」
綱吉ははっとして骸を見上げた。
骸はいつもの笑いを収めて、ひどく真面目な表情を見せている。
その顔を少し見つめて、綱吉は緩く首を振った。
「・・・・違うよ。オレが飼ってる猫なんだ」
「あの猫が綱吉君に害を与えるとしてもですか」
深い響きを持つ声がやんわりと胸の暖かいところをえぐるような鋭さを持って抉っていく。
確かにそうなのかもしれない。そうなのかもしれない。ヒバリさんがいるから、傷が耐えない。面倒ごとに巻き込まれ
る。ヒバリさんさえいなかったら。
否定できない叫びが心のどこかにあるからかもしれなかった。だけどそれだけじゃない。
ヒバリのいない数日で、それは嫌というほど綱吉の心の奥底に染み入っていた。
ヒバリがいるから、暖かいのだとか、楽しいのだとか、嬉しいのだとか。そんな気持ちを確かに自分は知っている。
綱吉ははっきりとした声でゆっくり告げる。
「そんなこと、なんでお前にわかるんだよ。ヒバリさんはそういうんじゃないよ。そりゃ優しくはないけどさ」
「綱吉君、」
呼びかける骸の声を遮る。
「だからお前は来なくていいよ」








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