注意:一部もやしもんのパロです。




事の発端は何であったかと考える。
いつだって過程よりは結果のほうが先に来て、めまぐるしく変化していく現実についていけない。
家庭教師いわく、
「おめぇがトロくせえだけだぞ」
思い浮かべる想像の中で、ニッといい笑顔を浮かべる家庭教師様に、涙目の綱吉は叫んだ。
「そんなこと言ったって、色々オレだって大変なんだよ!!」
・・・・ただし、心の中で。


酒飲みランデブー





いや、もう勘弁して。
何度そう願ったかわからない。ただし心の中で。
やっぱり神様はいないんだ。
そう思いながら涙を流す。やはり、心の中で。
こういうときには何で出てこないんだよ、いつもいらんときには出てくるくせに!!
最強ヒットマンの家庭教師に強気な苦情だって吐く。しつこいようだが心の中でだ。
沢田綱吉ことダメツナは現在人生最大のピンチに見舞われていた。
最近は年中無休でいつだってピンチだが、ここ3ヶ月でランキングをとるなら問題なく最大だ。
どういう種類のピンチかといえば、恐怖心とか、恐怖心とか、恐怖心とか。
主に、そういった意味で。




目の前で雲雀恭弥が酔っ払っている。
顔は赤い。耳なんかもう真っ赤だ。
これで眠ってでもいてくれたなら、もともと顔だけを見るなら整った顔だ。朱に染まった顔は少し幼く見えて、かわいい
とさえ思ったかも知れない。
錯覚でしかないだろうけど。
肉食獣というか猛獣というか、とにかく獰猛で苛烈な人だ。
機嫌がよさそうなのが救いといえば救いだが、だからといっていつ不機嫌になられるか分からない。
さらにいうならいつ、トンファーが出てくるかだって知れない。
テンションがいきなりハイになったりローになったりする、何しろ本能のままに生きている人だ。
警戒せずにはいられない。
そんな雲雀恭弥とたった一人で相対していれば。
寝てくれ、と願ってもみるが、手酌で杯を重ねる人は楽しげに、時折綱吉に視線を向けて口元は笑ってさえいる。
怖い。
ナチュラルに、怖い。
穏やかな笑みを浮かべる雲雀恭弥なんて、なんていうか、奇跡だ。仮に世界が今日でおしまい、という日になったっ
て一生目にすることはないと思っていた。
その腹の内が真に穏やかなのかどうかは計り知れないが。
穏やかで、しかも無駄に艶やかだ。
雲雀は何も言わない。ただ楽しげだ。
綱吉は溜息をひとつ。何で酒なんか飲む展開になったのかなあ、と考える。
ヒバリさんをリボーンが日本酒なんかでつってボンゴレ側のアジトにつれてきたんだ。綱吉は遠い目になって回想す
る。現実逃避だ。
やっぱり原因はあの家庭教師様なんじゃないかと絶叫する。いうまでもなく心の中でだ。
ヒバリだって、本当のところは日本酒なんてものじゃなくて、リボーンと酒盛りというシュチュエーションに誘われてや
ってきたに違いないのだ、と綱吉は思う。
昔から雲雀はリボーンのことを気に入っている。
そりゃもう、そのうち番目かの愛人にでもなろうかというくらいの勢いだ。
リボーンのほうは、調子を合わせて飴と鞭を使い分けながらうまく利用しているだけのようにも見えるが、その真意は
綱吉にはわからない。
そのリボーンといえば、こっちにつれてくるや否や、雲雀を綱吉に押し付けてなんだかんだと理由をつけて退席してし
まった。
そんなわけで、なりゆき上まさか相手をしないわけにもいかず、雲雀と酒を飲みながらも、ちっとも酔えない綱吉であ
る。
この貸しはでかいぞ、と思うだけは思ってみるが、実際に先生に言おうものなら借りを返してもらうどころか銃弾をもら
いそうなので言わない。
多分言えない。


と、そこまで考えたところで、現実はもはや逃避できないところにまで来ていたようだった。
雲雀が肩を寄せるようにして綱吉の顔を覗き込んでいる。
触れた雲雀の体温は高い。呼気からかすかにアルコールのにおいが立ち上る。
触れ合う体温と視線を受けて、綱吉は自分も体温が上がってくるのを自覚した。
覗き込む視線が、三日月のように弧を描く。
居心地が悪くてそれを誤魔化すように口を開いた。
「・・・・なんですか」
「生肉好き?」
雲雀の問いはいつだって端的だ。説明も何もなく、突拍子もない。聞き返す。
「は?」
「生肉」
滑り落ちるような低音で、雲雀は囁いた。囁きに耳を灼かれた気がする。
頬に熱が集まる。鼓動がはやくなる。アルコールのせいだと言い聞かせる。
だって他に要因なんて何もない。
しどろもどろに答えた。ただ答えを差し出すことに集中する。
「いや、ユッケとかなら・・・・」
雲雀はふうんと相槌を打ってから、無邪気といえる笑顔を浮かべた。
どきりとする。なにどきりとかしてんのオレ、と突っ込みも入れる。
綱吉は雲雀とは10年もの間、良くも悪くも関わってきたのだ。
それでも関係は変化せず、どうにだってならなかった人だ。
今更恋愛感情とかってないだろ、何も芽生えたりしないだろ、怖いのどきどきと、好きのドキドキを勘違いするあれ
だ、あれに違いないって!!と叫んでみたりもする。
・・・・心の中で。
にっこりと笑った雲雀は、猫が甘えつくように綱吉の首に顔を摺り寄せた。うっとりと囁きが落とされる。
「耳噛み切っていい?」
ぞくりとした。背筋を冷たいものが這い上がる。
急所は押さえられている。いつの間にか首に絡みつく指、逃げられない。途端に綱吉は体温が下がるのを感じた。
心臓は今度は別のドキドキで忙しい。軽いパニック状態だ。
いいわけないです、普通いいわけありませんよヒバリさん!!
やはり心の中で大絶叫の綱吉である。
がーん、となって青褪める。
「むちゃくちゃ言い始めた・・・・!!」
綱吉の叫びにも雲雀は上機嫌に笑っただけだ。
にこにこ笑いながら爪でぐっさりと綱吉の首を抉っていたりする。
痛みに悲鳴を上げる綱吉にさらに擦り寄りながら、雲雀は問いかけた。
「ねえ、君、名前は?」
「さ、沢田綱吉です・・・・」
オレの名前も忘れるってどんな酔い方だよ、つーかどこまで酔っ払ってるんだよこの人、とげんなりとする。
なんとか体を引こうと足掻くが、結局のところ綱吉は雲雀の腕力からは逃げられないらしかった。
頬が触れ合うくらい顔を寄せて、無駄に色っぽい声を雲雀は響かせた。
「ふうん。カワイイ名前だね」
どきり。
いやいやオレ、どきりっておかしいだろ、今結構なピンチなのに、とその鼓動を振り切るように体をよじる。
雲雀の腕は振り切れない。さらに抱え込まれる結果に終わる。
もはや泣きたいような気持ちで声を上げた。
「いやいやいや、なんか変ですよ、ヒバリさん」
雲雀は綱吉を首ごと引き寄せて、ぺろりと、舌先で唇を舐めて見せた。
「生肉好き?」
ぞわ、と鳥肌が立つ。
「またその質問?!」
「鼻噛み切っていい?」
雲雀が笑う。目も口元も綺麗に弧を描く三日月形だ。
「いやですー!!やめてくださいー!!!!」
綱吉は今度こそ絶叫した。心の中でではなく、現実に、声を上げて。





後日雲雀の言うところには。
「本当は酒は駄目なんだ。君には見られたから言うけど僕、泥酔すると甘え癖があるから」
照れながら言われても、どうリアクションを取っていいかわからない。
なら酒になんか釣られてのこのこついてくるなよ、とでもつっこめばいいのか。
「・・・・あれが甘え癖?!」
とりあえずぐったりする綱吉である。そんな生易しい言葉ではすませてはいけない気がする。
何とか生還できた自分を褒めてやりたいとも思っている綱吉でもある。
あの後の雲雀が程なく眠ってしまったからなのだが。
「じゃあなんだって言うのさ」
ムス、として、どこか不満げに雲雀は言った。
「・・・・もっとエグイものだったような気もするんですが・・・・、もういいです、甘え癖で・・・・」
めんどくさくなって綱吉はそういった。
首の傷が痛んだような気がして軽く指先で撫でてみる。
もう機会もないだろうが、雲雀とだけは酒を飲まないと心に誓う。





その後、雲雀が財団並盛支部に立ち寄ったと情報を得たときは、日本からそそくさと姿をくらますドン・ボンゴレの姿
があったとかなかったとか。





王立書庫へ
TOPへ