君がいれば嬉しいけれど、例えばいなくても、それでも僕は君の部屋が好きだ。


IN THE ROOM





カンダの部屋は、当たり前だが、カンダのにおいと気配が満ちている。
カンダ、ここで寝るんだよな。本当、必要なものだけしかないけど、って、あれ、カンダの私服だ。
これ着てるの見たことある。
カンダはあまり私服を持ってないし。
変態さんだって思われても仕方ないけど、くんくんて匂いまでかいでみた。
ほわーん、とカンダの気配に浸って、僕の機嫌は上昇中だ。
こんな姿絶対にカンダ本人やラビには見せられない。
カンダの匂いがする。それだけで僕は幸せ。
うはー!!なんて興奮して、カンダのベッドに転がった。
そこもカンダのにおい。カンダのシャツを抱きしめたまま、シーツまで嗅いじゃったりして。
匂いはカンダを連想させて、僕はカンダを思い出すだけで、鼓動はいつもの倍以上。
顔に熱が集まって、僕はベッドの上で子供みたいに手足をバタバタ。
だってどうやって興奮を逃がしていいのか分からない。
いいにおいするし、あのカンダがこのベッドに時々はよだれなんかつけちゃって寝ているのかと想像すると、もうもうも
う!!
「・・・・」
うっ、と途端に僕は鼻を押さえた。
なぜかってそりゃあ、・・・・いいたくないけど、鼻血。
カンダのにおいって破壊的だなあ。もうもう僕をどこまで夢中にさせれば気がすむの。
鼻を右手の指で摘んで、カンダの部屋のティッシュを探そうとして。
その時に気づいた。外から足音。
僕の頭は冷や水を被せられたみたいに、急に冷静になる。
足音で、それがカンダかそうでないか、そのくらいは僕にはわかる。
これはカンダの足音だ。
どどどどどうしよう!!
僕の頭は真っ白だ。だって今更、なにを誤魔化せる?
せめて、ベッドからは降りて、カンダの服を戻して、ええと、あとはなにを。
このままじゃ、変態の現行犯だ。
僕は慌ててベッドから降りると、服を元通りハンガーにかけた。
それでできることは終わった。
あとは、鼻血の言い訳、とか。
カンダの部屋のハウスダストがひどくて、・・・・ああ、ハウスダストじゃ鼻血は出ないよ、マナ。
錯乱のあまり関係のない養父の名前まで出てくる始末だ。
そもそも留守中に呼ばれたわけでもないのに部屋にいることがまずい。
窓から逃亡。・・・・無理!!多分怪我する!!
それに逃亡しようと、部屋にいた事実はおそらくばれてしまう。
カンダはそれほど、・・・・少なくとも侵入者がいた気配に気づかないほどには・・・・、鈍いわけでも馬鹿なわけでもな
いし!!
ああああ!!どうしたら!!
僕が錯乱している間にも足音はすぐドアの前に。
タイミングよく鼻血がつうっと流れてきたりしたもんだから、僕は本気で泣きたくなった。
「・・・・モヤシ。お前、なにやってんだ」
うわあ。機嫌悪っ!!
ドスの聞いた声で言われて困り果てた僕はへらりと愛想笑いを浮かべた。
「ええと、ですね。カンダの部屋の近くで、その、鼻に怪我をしてしまいまして、ティッシュを借りようと、たまたま近くに
あったカンダの部屋に入らせてもらったわけです」
多少不自然だが、言い訳としてはおかしくないはずだ!!ナイス!!僕!!
だって最初から鍵は開いていた。
カンダの部屋と知っていてずかずかと入る人間なんか、教団内にはいないからだろうけど。
・・・・僕以外には。
「・・・・鼻に怪我、だと?!」
「はいそうです。冷血漢のカンダは人の怪我になんて興味ないと思いますけど、手当てをしていくくらい、いいでしょ
う?」
そういってティッシュをもらって帰るつもりだった。
だというのにカンダは予想外の言葉を吐く。
「見せてみろ」
「ええ!!い、いや、いいです!!いいですよ!!ティッシュさえもらえたら僕、」
僕は鼻を摘んだまま、あいている左手をぶんぶんを拒否するように何度も振った。
左手は、イノセンスだ。
カンダは、てめ、あぶねえだろうが!!と叫びながらそれを避けて、それでも鼻を摘んだままの右手に視線を送ってき
た。
「鼻血、か?」
気づかれた。
まあ気づかれないはずもないよね、マナ。
とりあえず、開きなおるしかない。
「・・・・そうですよ!!なんか文句でもあるんですか!!」
「別に」
勢い込んで言った僕を、カンダは意外なほど素っ気無くいなした。
ポケットからポケットティッシュを取り出して、ぽいと僕に放り投げてくる。
「オラ、丸めて詰めとけ」
「・・・・ありがとうございます」
他にいいようもなく、僕はとりあえず礼を言った。
さすがに好きな人の前で、鼻にティッシュを丸めて詰めるのはどうだろう、と思うけど、背は腹に変えられない。
しかたなく、極力控えめにつめてみたりする。
ふが、と息が苦しい。
カンダは既に僕のことはどうでもよくなった様子で、部屋の隅に六幻を立てかけて、コートを脱ごうと、ボタンを外して
いる。
そんな仕草にさえ、ぐらぐらしてしまう僕だから、鼻血は止まりそうにない。
ティッシュをもらったらすぐに出て行こうと思っていたのに、カンダをもう少し見ていたくなって、僕はさりげなく、ベッドに
腰を降ろした。
カンダは僕の行動を気にした様子もなく、脱いだコートをハンガーにかけている。
問いかけた。
「聞かないんですか?理由、とか」
いいたいわけでもないが、全く気にかけてもらえないと、それはそれでどうなんだと思う。
そんな僕にカンダはふん、と鼻で笑って見せた。
「どうせくだらねえ理由なんだろうが。不法侵入者が」
そういわれて反論できないくらいには、まあそうなんだけど。
くだらないと一刀両断してしまえるほどには、カンダは僕の鼻血の理由に気づいていて、それなら例え変態だと思わ
れようと、それをくだらないの一言で片付けられるのは少しだけ切ない気がした。
僕は君が好きで、だから君に繋がるもの全てが僕の頬に血を集めて、心臓ばくばく言わせて、脳からはドーパミンが
どばどば出る。そのせいで余計に君を好きだと自覚する。
ちょっとばかり僕が変態っぽくなっちゃうのも全部、カンダのせいだ。
くだらないには違いない。でも僕を動かすエネルギーだ。
「くだらないことの中に大切なことって、結構たくさんあるもんです」
僕は少しむきになって返した。
こんなにも君が好きなのに、わかってもらえないなんてバカげている。
「ふうん」
カンダはあくびをしながら一つ頷いた。どうでもよさそうな顔だ。
僕はむう、と唇を尖らせる。
「カンダ、どうでもいいって顔してます」
「どうでもいいからな」
ちらりと、流し目の視線をよこして、カンダ。
ああきみはもう!!
そんな色っぽい顔見せられたら、ますます血は止まらないのに、ここを出て行きたくない。
こっそり溜息をつく僕に、カンダは腕を伸ばしてきた。
「まだとまらねえな」
言いながら。僕の鼻から、詰められたティッシュを引っこ抜いてゴミ箱にぽいと捨てる。僕は大いに慌てた。
「ちょ、カンダ、いいですよ、そんなことまで!!ふがっ」
僕の声が続かなかったのは、カンダに鼻を摘まれたからだ。
「摘んでてやるから、上向け、上」
もう片方の手の人差し指で指差すように上を示されて、僕はしぶしぶとそれにしたがった。
カンダのベッドを血液で汚すわけにはいかないし、カンダに鼻をつままれるというかなり不本意な事態ではあるもの
の、まだ出て行けとは言われない。
もう少しカンダを見ていられる。
上を向く、僕の視線のすぐ先にはカンダの顔がドアップだ。僕は座っていて、カンダは立っていて、すぐ近くにいるんだ
から見上げた先には必然的に、カンダの顔しか見えない。
なんて、幸せ。血なんて止まるわけないよ。
カンダは僕の視線を受けて、はん、と嘲るように笑んで見せた。そんな顔さえ綺麗。
「間抜け面」
カンダに見惚れていた僕は、そのカンダが吐いた言葉に顔色を変えた。
そんな声も好きだなんて秘密だけど、仕返ししなきゃと僕は考える。
カンダの顔色を変える方法。
思いつきは半秒で、決行の判断も半秒。
僕は大きく口を開けて、カンダの唇に噛み付いた。
てめ、とかなんとか。カンダが僕に食われた口の中で言ったみたいだったけど、どうでもよくて。
食らいつくしてやる、と思ったあたりで、僕は息が出来ないことに気づいた。
カンダは、驚きに一瞬僕の鼻を離すように力を緩めた、のだが。次の一瞬で、事態を飲み込んだようで、ぎゅっ、と僕
の鼻を力いっぱい捻り上げてきやがった。
痛い!!痛いよ!!
今度は僕がカンダの口の中で叫ぶ番だった。なのにカンダは途端に楽しそうで、キスの主導権は僕から君へ。
カンダの胸をがんがん叩いて、イノセンス発動直前まで見せ付けたところで、ようやくカンダは僕から離れた。
「く、苦しかった・・・・!!」
ぜーはーぜーはー。
ぐったりとしながら、荒く呼吸する僕に、カンダは完全にバカにしきったように笑った。
「お前、後先考えてないだろう」
「わ、悪かったですね!!」
怒鳴っておく。
勝ち誇ったようなカンダに僕は、日を改めてのリベンジを心の中で誓っておいた。
今日は僕はカンダに負けっぱなしだ。こういう日はきっとどれだけ挑んでも同じ結果だろう。
そもそもが、誘惑に負けて負けて負けたおした結果だから、もうしかたがない。
君が好きなんだから、仕方がないよ。





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サイト開設4周年記念のお祝いに藤代様に捧げます。
ムクヒバ失敗作だけでは、あまりにもあんまりなので、大慌てで書き上げてみました。
アレン様がアフォですみませんすみません。
これが精一杯でした・・・・っ!!