ある日綱吉が家に帰ると、なにやら物騒としか言いようのない雰囲気をかもし出した、黒服の人だかりができてい
た。

「なんか家の前物騒だ!」
思わず叫ぶ綱吉である。
どうせこの手のことは、同居人のヒバリのせいかと見当をつけては見るものの、だからといって当然のようにそれに抗
う手段というのもない。
それすらもいつものことではあるから、悲しいかな、諦めと耐性はついてきている。
だからといって、納得して受け入れられる日は多分永遠に来ないであろうが。
なんにしろ、窓から顔を出して、怖ろしげに様子を伺っている、大家さんやら近隣住民やらの視線が、ちくちくちくちく
と、・・・・胸に痛くはあった。


BLACK CAT LIFE




「この状況何なのー?!」
誰が聞くわけでもないと分かってはいたが、綱吉はどうにもならない状況といたたまれなさに頭を抱えてツッコミをい
れる。
ちなみに今この場にヒバリはいない。
朝学校で別れたきりだから、もう家に帰ってきているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
帰ってきているにしても姿を見せないわけだから、もしかしたら無関係なのかもしれなかったが。
なんにしろ、こんな事態は自分がらみではないはずだと、綱吉は半ば現実逃避のように判断した。
こんなヤバそうな黒服集団と綱吉自身の今までの人生など、接点はないに等しいのだし、これからも接点を持たずに
生きていきたいと心底願う、小市民・綱吉だ。
「よお。お前がツナか」
そんな綱吉にお名指しで声がかかる。
思わずびくりと反応しながら、綱吉は声の聞こえたほうへ恐る恐る視線をやった。
黒服姿の男に囲まれて、1人ラフな格好をした男だ。綱吉に向けて歩み寄ってくる。
その男の、日本人ではありえない色に彩られた美貌に綱吉は固まった。
うわ。金髪だ!青い目だ!睫長っ!!
つか、何でこの人オレの名前知ってんの?!
「ど、どなたでしょう・・・・?」
知り合いのはずはもちろんないが、この男が自分の名を呼んだのは事実で、綱吉はそれを聞くべく質問を口にする。
それとなく周囲を見渡すと、窓から伺っていた住民の視線が、途端に多少ではあるが好意的なものに変わっている。
その状況に、誰しも美形には弱いのだと実感を持って綱吉は悟った。
まあそれでこのなにやら怪しげな事態が不問にされるなら、それに越したことはない。
ヒバリのことがあるから大家さんにしても綱吉を追い出したりはできないだろうが、色々と後ろ指を差されたり、平穏
に暮らせなくなるのは困る。
もっとも今が平穏とはとても言えないのだが、これ以上ひどくなるようなことは全力で拒否したいというのが本音だ。
金髪の青年はじっ、と綱吉の顔を覗き込むようにしてから、一言言った。
「こりゃダメだな!」
その言葉自体は、今更この青年に言われるまでもないくらいには自覚も馴染みもある綱吉だが、何しろいきなりのこ
と過ぎて頭がついていかない。
そんな理由で押し黙っている間に青年はさらに言葉を続けていく。
「オーラがねぇ。面構えが悪い。覇気もねぇし、期待感もねぇ。幸も薄そーだ」
初対面でいきなりダメだしー?!
さすがにそこまで貶められれば頭がついていかないはずもなく、綱吉はどうしょうもないような気持ちで顔を引きつら
せた。
悲しいことに綱吉には何一つ反論はできそうもないが、本人に面と向かってここまで言うのもどうだろう。
その青年にしてみたら、たいした問題ではなかったのには違いない。
顔を引きつらせる綱吉に笑いかけながら、ぽんぽんと、綱吉の薄茶の髪を撫で付ける。
その手は決して乱暴なものではなく、どちらというなら優しいものだった。
「悪ぃことばっかり言ったが、気を悪くすんなよ。オレはリボーンの元教え子で、今日急用ができて来られないリボーン
の代わりに家庭教師しに来たディーノだ」
「リボーンの教え子?!」
綱吉は驚いてディーノと名乗ったその青年を見上げる。
リボーンってすごいけど、絶対に普通じゃないし。
そのリボーンの教え子なんて、またスンゲーヤバイ人きちゃったんじゃないの・・・・?!
綱吉の感想はそれに尽きる。
初対面でかなりひどいことをいわれたような気もするし、と思いながら、それでも、ディーノの視線は優しいし、どことな
く自分に通じるものも見えるような気もする。
あくまで感覚的なものだから、それをどこまで信用していいのかはわからないが。
「とにかく、オレは家庭教師で来たんだ。勉強しようぜ」
どちらにせよ、断るという選択肢は用意されていないらしい。
ディーノに肩に手を置かれて促すように押され、とりあえずは部屋に行くことにする。
「お前らはここで待っていろ」
ディーノは黒服の1人に玄関までついてくるように指示し、残りの男たちにそう声をかけた。
いや、入るといわれてもそんなにたくさん人が入るスペースは確かに家にはないんだけども。
だからといって、このまま家の前をうろつかれて、家の前物騒状態が続くのも、それはそれで困る。
そう思いながらも、そんなことをいえるはずもなく、それについてはもう諦めることにした綱吉は、軽く吐息を吐き出しな
がら鍵を出し、部屋のドアを開けた。
そして黒服の1人を玄関に控えさせ部屋に入ったディーノは。
玄関からは確認できない位置に入った途端。足を踏み外してそれは盛大にずっこけたのだった。
「あでっ!」
「だ、大丈夫ですか?!」
部屋の中で、とっくにうちに帰ってきていたらしいヒバリが、呆れたような視線でディーノを眺めるのが綱吉の位置から
も見えた。




「ここはこの公式を・・・・ん?!ち、ちょっと待ってくれツナ、・・・・あれ?!」
この人、家庭教師として本当に頼りになるのかな・・・・。
そんな綱吉のそこはかとない疑問を胸にはじまった勉強である。
ちなみにヒバリは特に関わる気はないのか、ベッドの上で尻尾を揺らしながらうとうとしているようだった。
目の前では、案の定というかなんと言うか、ディーノは綱吉の教科書を覗き込んで、ん?だの、あれ?だの、果ては、
おかしいぞ、などと呟きながら・・・・、とにかく教えるというレベルにすら達していない。
ちなみにこの展開はディーノが家にきてから数度目だ。
それを困ったような顔で眺めながら、綱吉はこっそり溜息をついた。
玄関に控えていた黒服の男が、様子を伺うように声をかけてくる。
「なにやってんだ、ボス」
ちなみのこの問いかけも数度目だったりする。
ボス?!ボスって何のボス?!
さっきから何度も、内心聞きたくても聞けないその疑問に綱吉は顔を引きつらせた。
あの黒服集団のボスということは、さほど人が悪そうに見えるわけでもないディーノだが、それなりに裏社会の人間な
のだろう。何をやっているのかは想像もつかないし、知りたいとも思わないが。
黒服が玄関から部屋に入ってきて、ディーノの持つ教科書を後ろから覗き込む。
その途端。
ああでもないこうでもないと唸っていたディーノが持っていた教科書をおき、綱吉の広げるノートにさらさらと一つ公式
を書いた。
「ああ!思い出したぜ!!ここはこの公式だ、ツナ!」
「・・・・」
綱吉はその公式を見つめ、それから正面に座るディーノを見つめ、その視線を黒服の男に注いだ。
わずかに首をかしげる。
さっきからこれと全く同じ展開が続いている。つまり。
別にボスと呼ぶこの黒服の男が教えたということもないのに、この人がいると途端頼りがいを取り戻すみたいなディー
ノにツナの頭の中は?になる。
かといってその疑問が解けることはなく、結局綱吉は首をかしげたままノートに書かれた公式に再び視線を落とした。
偶然かな、と思うことにする。
黒服の男が部屋を出て行った。また玄関に戻ったらしい。
次の問題に移る。するとまたディーノが首を傾げて悩みだす。
いい加減そのパターンに疲れてきたということもあり、ふと思い出したということもあり、綱吉は、あ、と声を上げた。
「オレお茶も出してなかったですね」
言ってから立ち上がろうとすると、ディーノがそれをとめてきた。
「いや、オレが入れてきてやる。ツナには宿題があるからな」
「あ、ありがとうございます」
この人優しい!!やっぱりいい人だ!!
今までのヒバリやリボーンがどんな意味でも理不尽だった為、些細なことにでも感動できる綱吉である。
容姿に反して完璧ではないドジさにも親しみを感じたりもできる。
お兄さんとかいたらこんなかんじなのかな、とのほほんと考える綱吉を、立ち上がった途端、何もないところで転んだ
ディーノが突き飛ばす。
「いでっ?!」
「ああ!!スマン!!ツナ!!」
「だ、大丈夫です・・・・」
起き上がりながらも、実はこれも2度目だな、と綱吉はぼんやりと思った。
すりむいた膝小僧を撫でながら、今後は少しディーノから距離をとっておこうと決心する。
それまで完全に知らんふりを決め込んでいたヒバリが、うんざりとしたようにこちらを振り向く。
「ちょっと。あなた、この子の傷を増やしにきたの」
もうディーノの前では隠すことも馬鹿らしくなったのか、呆れたように目を細めていたヒバリがぼそりと呟いた。
あなた一人が転ぶのは別にどうでもいいけど、ただでさえこの子もよく転んで生傷が絶えないんだから、これ以上傷
を増やさないでくれる、とヒバリは続けてはくれるが、オレの怪我が絶えないのは、転ぶせいもあるけど、ヒバリさん
のキックやパンチのせいでもありますとは、言いたくても言えずに綱吉は口を噤んだ。
ディーノはヒバリに一瞬だけ目を大きく見開いたが、すぐに笑顔になって言いながら、撫でるようにヒバリの頭に手を
差し出す。
「お前がキョーヤか。リボーンから話は聞いてるぜ」
「そう」
答えながらもヒバリは容赦なくその手に爪を立て、傷口からは思ったより勢いよく血液が噴出した。
「のおおおっ?!」
「ちょっ、ヒバリさん、何するんですか?!ディーノさん大丈夫ですか?!」
ふん、と顔を背けるヒバリはこの際ほうっておく事にして、綱吉は慌ててティッシュと、ヒバリと暮らしていく上では必
需品の絆創膏を、ディーノに差し出した。




「じゃあオレ、茶を入れてくっからな!」
手当ても終わり、本来の目的を思い出したらしいディーノが立ち上がった。
「じ、じゃあ、お願いします」
言いながらもまた何かやらかすんじゃ、という不安が消えない綱吉の予想を体現するように、ディーノが部屋の境の
段差で滑りそうになって慌てて体勢を立て直していたりする。
「いやー、あぶねーあぶねー」
「いや、危ないって言うか・・・・」
本当にこの人大丈夫なのか。
さっきのこけっぷりは、それは見事なこけっぷりだったと思う。
人のことは言えないほどには、しょっちゅうこけているツナから見てでさえだ。
わざとということもないだろうけど、そんなことをするメリットもないだろうし、と考えながらも。
もしかして、初対面で緊張しているオレの緊張をほぐそうとしてわざとやってくれているのかな、たしかに親しみは感
じるし、などという考えが綱吉の脳裏に閃く。
だとしたら、本当にいい人だなあ。ちょっと行き過ぎな気もするけど、と綱吉は思いながらディーノを見た。
ディーノは打ちつけた顔面をさすりながら、キッチンへ向かっていく。
そしてしばらくしてから。
「熱っちぃー!!」
「だっ、大丈夫ですか?!」
悲鳴だ。どうにもマジらしかった。音から察するに湯でも零した様子だが。
綱吉は溜息とともにそれを認めて、ディーノの応援にキッチンに向かったのだった。黒服の男もさすがにどこから気に
なったのか心配げにキッチンに入ってくる。
「大丈夫かぁ?!ボス。茶くらいならオレが入れてもいいぜ」
「いや、いい。家庭教師を引き受けたのはオレだからな。ロマーリオ、お前らは一足先に帰っていていいぞ」
言いながら、てきぱきと湯をこぼした後始末を終え、さっきまでドジっていた人とは思えないほどには、手際よく茶を入
れていく。
「・・・・」
この人、この人が見てると普通よりできる人間だ。見てないと色々とひどいけど。
そう思いながら綱吉は黒服の男とディーノを交互に見比べる。
メカニズムは分からないが、とにかくある意味究極のボス体質なのだろうと、そう理解しておくことにした。
つまり、常に部下がいたらドジらないのかもしれない。
と思いついたものの。帰っていい、の一言にその男は軽く手を上げて挨拶してきた。
「じゃーボス、オレたちはこれで」
「ああ。ご苦労だった」
綱吉にも軽く会釈をして男は出て行く。家の周りにいた男たちも撤収していくようだ。
綱吉はディーノを見上げた。もしも自分の予想が正しければ、部下が誰もいなくなったこの人はある意味危険だ。
だがディーノはにっか、と白い歯を見せて笑みを浮かべると言ってきた。
「あとはオレが運ぶからツナは勉強してていいぜ」
「いえ、ディーノさんオレ運びます」
任せておくとなんか不安だ。
そう判断した綱吉はディーノからそれを引き取るようにしてテーブルまで運んだ。
「そっかー?悪ぃなー」
のほほんとついてくるディーノから少し距離をとり、転ばれても被害のないだろう位置に座ると、綱吉はトレイから3人
分のマグカップを下ろしていった。
ディーノが入れてくれたのは紅茶だ。
ヒバリの前にも同じように置いて、綱吉はそれを一口口に含んだ。それなりにおいしい。
ほっと一息ついて、カップをテーブルに戻したときだ。
ごち。
「いでっ!!」
悲鳴は2人同時だった。
こけられても被害の出ない位置にまで移動したというのに、今度はどんな事故の結果なのかディーノのかましたジャ
ンピングスライディングのようなそれにその距離は既に無意味なものになっている。
「いってーぇ!!」
互いに顔の一部を押えて悶絶しながらも、綱吉は何がどこにぶつかったのか、ぶつけたその瞬間の痛みが強烈すぎ
て分からなかったその事態を素早く脳裏によみがえらせていた。
えと。ディーノさんが倒れ掛かってきて・・・・、ぶつけたのは唇で、お互いに歯がごち、ってぶつかって、・・・・それっ
て、ぶつかったのはディーノさんの唇・・・・?!
事態を理解して、顔を真っ赤にさせて綱吉が、何か言おうと口を開くより早く、ヒバリの怒声がその場に響いた。
「ちょっと!なにするのさ!!」
「にゃにって、お前にしたわけじゃないらろ。ツナ!!すまん!!」
「いひゃいれす・・・・」
唇を両手で押えて、涙目で綱吉はディーノを見上げた。対するディーノも涙目だ。
お互いに口を押えたまま、口内を切ったせいで発音がややおかしい。
「もうあなたは帰って」
呆れたような顔で、きっぱりとヒバリが告げた。その瞳がなにやら怒っているのに、綱吉が、ひいぃぃと悲鳴を上げる。
ディーノはその怒気に曝されながらも、少し困った顔をして見せた。
「いや、だってまだ宿題が残ってんじゃねーか」
「あなたさっきから全然教えられてないじゃない。もういいよ。あとは僕が教える」
その言葉に驚いたのは綱吉だ。
「ええ!!ヒバリひゃんが?!」
「文句があるのかい?」
振り向いたヒバリのその視線の鋭さに、唇の痛みも忘れてこくこくと綱吉は頷く。
「いへ、ないれしゅ」
ヒバリは満足げに頷いた。テーブルの上に降り立ってディーノを見上げる。
「うん。そういうことだから。役に立たないあなたは用なし」
一言付け加えた。
「二度と、あなたを来させないように、赤ん坊にそう言っといて」




その後ディーノは仕方がない、というリアクションなのか肩を竦めて見せ、綱吉にはもう一言謝り、それからのんきに
呟いた。
「じゃじゃ馬に嫌われちまったな」
ヒバリは知らん顔をしていたが、せっかくきてもらったのに悪いような気になって、玄関先まで見送って謝り倒した綱
吉である。
社交辞令か本気なのか、「今度キョーヤ抜きでどこか外で飯でも食おうぜ」、と陽気に笑って見せるとディーノは帰っ
てしまった。
それからはじまったヒバリとの勉強は、綱吉にとっては想像するだけでも怖ろしいものだったのだが。
意外にもヒバリの与えるヒントは的確でわかりやすく、思うほどには短気でもなく、感動さえ覚えてしまった綱吉では
ある。
思わずというように聞いてみる。ちなみにまだ傷が痛むため、しゃべり方はおかしなままだ。
「でも、ヒバリひゃんがおひえられるなら、なんれ家庭教師なんら、」
「赤ん坊とは相性よさそうだからね君は」
「ええー!!よくないれすよ!!ろんな誤解ひてるんれすか!!」
言いながらも、だからといってヒバリに毎日教えてもらうというのもそれはそれで空恐ろしい。
「僕はずっと暇してるわけじゃないし」
「れすよねーそうれすよねー」
とりあえず相槌を打っておく。
ヒバリはちらりと綱吉を見て、ところでさ、と言葉を続けた。
「君、その喋り方頭悪そうだよ」
「らってまら痛いんれすよ?」
ペロンと唇をめくって、傷を見せながら綱吉が言う。
「見せて」
綱吉の前まで来たヒバリはその傷を見つめる。
それからぺろりと小さな舌先でそこを舐めた。
「ひょっ、ヒバリひゃんっ?!」
驚いた綱吉が慌てて体を引く。
ヒバリは気にした様子もなく、さらりと言った。
「要するに怪我だろう。舐めとけばなおるんじゃない?」
「・・・・舐めとけばって、」
常に唾液に曝されている部分なんですけど、という綱吉のセリフは最後まで言わせてもらえなかった。
向けられたヒバリの視線が険を帯び始めたからだ。
「うるさいな。文句あるの?」
雲行きの怪しさに、急いでぶんぶんと首を横に振る綱吉だ。
「いえ!!ないれす!!」
「そう」
満足げに頷く猫にこっそりと綱吉は溜息をついた。
こんな猫の顔色を見て過ごすような生活に慣れてはいけないと思いつつ、慣らされている現状にはもう溜息しか出な
い。
色々と後悔の海に沈みかけた綱吉の意識を現実に引き戻したのは、やはりその元凶たる猫の声だった。
「それと、明日からしばらく僕は留守にするから」
思いもよらない一言に綱吉は目を見開く。
「え?ろっか行くんれすか?ヒバリひゃん」
「ちょっとね。何日か帰らない」
それは。ちょっと嬉しいかもしれない。息抜きができる、と思いながらも、賢明にその考えを悟らせないようにポーカー
フェイスを装って、綱吉は問いかけた。
「何日か、ってろのくらいれすか?」
「さあ。1週間くらいかもね」
猫の答えに口元がわずかだが緩むのを抑えられない。
それでも少し気になって綱吉は口を開いた。
「かもねって。ろこに行くのか知りませんけど、気をつけてくらさいよ」
そんな心配はヒバリには必要ないのかもしれないが、一応というように言っておく。
ケンカに負けるようなことはないようだが、時々それなりに怪我をして帰ってくるから綱吉としては心配な部分もある
のだ。
プライドが高いだけに、怪我の自己申告はなく、いつだって様子がおかしいと感じた綱吉が気づく。
普段は肩に乗ってくるのに、来ないとか、殴る力がいつもより弱いとか、ぐったりと眠っているとか。
しかも聞いてみると、「何のことだい?」といわれたりするのだから、気位が高いとしか言いようがないのだが。
ヒバリは綱吉を見上げて、少しの間見つめた後、思いの他素直に頷いて見せた。
「・・・・うん。君もね。僕がいないから、変な連中に絡まれたりしないようにね」
ついでのように心配されて、綱吉は困ったような顔になった。
一度隣町に用事があって出かけたときに、不良グループに絡まれたことがあったと思い出したからだ。
腹に一発入れられたところで、ヒバリが現れ、それはもう猫とは思えない身のこなしで不良グループを倒してしまった
のだが。
そういえばそんなこともあったな、それにしても猫に助けられる人間ってどうだろう、と遠い目になりかけた綱吉に、ヒ
バリはもう一言注意事項を告げてきた。
「赤ん坊はいいけど、さっきの馬鹿も家に入れちゃダメだよ」
ヒバリを前にしては、ディーノさんは多分いい人だと思うんだけど、とはいえずに、綱吉はこくりと一つ頷いてみせる。
ヒバリはそれを確認して、尻尾を綱吉の腕に触れさせながら、一応は最後らしい注意事項を口にした。
「いいかい。トラブルは避けるんだよ。君はとにかく鈍くさいんだから」
猫にここまで言われるオレってどうなんだろう。て言うか、そのトラブルの一端を担っていることも多い、この猫にいわ
れるのはどうなんだろう。
綱吉はそんな感想を抱きはしたが、ただ黙ってヒバリの言葉に頷いた。
触れる尻尾の毛並みの感触が気持ちいいと感じながら。




NEXT

王立書庫へ
TOPへ